【本】プロスポーツクラブのマネジメント
大体においてファン・サポーターというのは贔屓のチームが負けると何がしかをやり玉に上げてウサを晴らしたがるものです(往々にして「自責」という方向へ向ってしまうレッズサポは極めて例外的でしょう)。
チームへの思い入れが深くなると、特定の選手を敗因として責めたてるのは概して心苦しいもの(そうでない人もまた多いですが)。従って大抵の場合、敗戦の責任をかぶるのは監督やフロントとなります。
監督であればその一挙手一投足が現場で観察され、あるいはメディアで報じられるため、いわば酒の肴としてネタに事欠くことはありません。
ところが、フロントの場合はどうでしょう。「うちはフロントがダメだから」という話はよく耳にしますが、そもそもフロントとは一体何をやっているのか、またどうあるべきなのか、実はファン・サポーターはフロントについて戦力補強以外語るべき材料を持ち合わせていないのではないでしょうか?
また阪神タイガース上場問題やマンU買収問題、あるいはJリーグでも散見される経営難問題のように、クラブ経営そのものがファン・サポーターの心理を揺るがすこともままあります。
こうした問題意識から、フロントのお仕事を垣間見ると共にそのあるべき姿を考える足掛りとして標記本を読んでみました。この本は「JリーグGM講座」のテキストをもとに作成され、クラブのマネジメントに携わる方の参考をなるべく書かれたものです。
コーポレートガバナンス・財務・組織論・マーケティングといった幅広い切り口でスポーツクラブのマネジメントを論じているので、取っ掛かりとしては良い本だと思います。
ただ、過去に類例が少ないせいか、また出版されて日が浅くて内容がこなれていないせいか、スポーツクラブマネジメントのノウハウ本を指向したものなのか、あるいはスポーツクラブマネジメントを学際的に検討しようとしたものなのか、未整理の感が拭えませんでした。 大雑把に言えば第1章(法人格とガバナンス)と第2章(財務)は後者の色彩、それ以降は前者の色彩が強く出ているように思います。
またコーポレートガバナンス・財務・組織論・マーケティング等々、いずれにおいても広く企業一般に適用される「総論」があって、これがスポーツクラブの場合どう適用・変容されるのかという論の進め方をしている箇所が多いにも関わらず、「総論」に関する参考文献を掲載していないのはテキストとしていかがなものかと思います。
例えば第1章第2項(4)の「サポーター」の項で唐突に社会学的概念やマーケティング理論上の概念が登場しますが、それらに馴染みが無い人読者にとってはかなり難解な記述だと思います。
多少の難はありますが、フロントの行動を注視してゆく上で、こういう本を通じて多少切り口の多様化・視座の拡張ができればよろしいのではないでしょうか。
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