・敗色濃厚どころか、後半は手も足も出ず絶望的な展開だった試合をラストプレーでなんとかドローに持ち込む。確かにマルティノスを下げた後は攻撃はまるで成り立たなかったかもしれない。守備も何度も右サイドをぶち破られ、たいした改善は見られなかったかもしれない。しかし、ただ選手達に闘う気持ちは十二分に感じられた。オリヴェイラ監督末期のように、疲れ切った選手達が漫然とボールを追っているだけの試合ではなかった。それだけでも監督を代えた意味はあったと評価していいと思います。
・昨年暫定監督として無敗だった大槻監督を過大評価するのを戒める趣旨でこの試合内容を厳しく見る向きもあるようですが、就任後わずか3日しかなかった練習で攻守とも大幅な改善を見込むほうが無理がありましょう。昨年の暫定監督就任時同様、闘える選手を選び、凹んでいる選手達のやる気を引き上げるくらいしかやれることはない。そして監督の檄を受けて選手達はそれなりに走った。たとえそれが60分程度で終わったとしても。
・その結果11位かつ足下リーグ戦4連敗中のチームが、2位かつ足下ACLを含めて10試合負け無しのチームからアウェーで勝ち点1を掠め取ったのですから、これは「提灯行列モノ」と評して差し支えないでしょう。どんなに試合内容がしょぼかろうとも。
・負けが混んでいるチーム、歯車が狂っているチームはとにかく何がしか立ち直りのきっかけが必要。内容は見るべきところがなかったかもしれない。10回闘っても全敗するような内容だったかもしれない。それでも川崎に何度守備陣を崩されようとも決定的な追加点を与えずに粘り強く闘ったことへのご褒美が最後の最後に転がり込んできた。ほぼ偶然といってもいいこの勝ち点1が浦和再生のきっかけになるような気がしました。
・もちろん、毎度毎度「闘う気持ち」だけで勝ち点が拾えるほど世の中甘くはなく、攻守両面でオリヴェイラ監督末期にすっかりズタボロになってしまったチーム戦術の立て直しが急務なことは確か。それゆえ代表ウイーク明けの鳥栖戦は早々に大槻監督の真価が問われることになりましょう。
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・3日間とも練習は非公開だったので大槻監督の出方は全く判りませんでしたが、スタメン選考方針&試合運び(=動ける選手、闘える選手を選んで立ち上がりからハイプレスで仕掛けに仕掛ける)はほぼ湘南戦をなぞったものだったと思います。
・メンバー選考には大槻監督の意図が如実に表れ、森脇に代えて岩武をいきなりスタメンに抜擢した他、鈴木→岩波、山中→宇賀神、エヴェルトン→柴戸、長澤→マルティノスと前節からスタメンを5人も入れ替え。さらに怪我明け後明らかにコンディションが整っていないファブリシオと、壁にぶち当たって最近何も出来なかった汰木をベンチ外とし、杉本と荻原をベンチに入れた辺りも動ける選手、闘える選手優先という方針が色濃く出ています。岩武大抜擢のあおりで長澤がベンチ外なのが意外なくらい。
・またスタメンは守れる選手を極力優先したのも明白で、唯一守りに不安があるマルティノスはカウンター要員。鈴木より守備に不安のある岩波を起用したのは高精度の縦ポンに期待したものと思われ、実際序盤はその意図通りに試合は動きました。
・フォーメーションは3-4-2-1で、昨年の暫定監督時代の基本フォーメーション通り。ただボランチの片方が最終ラインに下がったり、CBがやたら開いたりしないのでもはやミシャ式とは言い難い感じ。
・浦和のゲームの入りは超積極的で前からガーーーっとハイプレス。いきなり岩武のボール奪取からのカウンターで宇賀神クロスがそのまま川崎ゴールを揺らしたかと思われましたが、前にいた興梠がわずかにオフサイド。5分にはショートカウンターからマルティノスが枠内シュート。
・湘南戦はスタメン総とっかえという浦和の奇策に相手が戸惑っているうちに浦和のハイプレスが嵌まって早々に2点奪取できました。大槻監督もその再現を狙ったのでしょうが、さすがに川崎は湘南と違って相手の出方が判らなくても大崩れはせず、浦和の暴走的なプレスを落ち着いて交わして反撃。
・10分には岩武が中途半端にSB登里に食いついたのが仇となって、登里のスルーパス一発で岩波がSH長谷川に豪快に裏を取られてヒヤリ。以後、浦和はこの登里&長谷川コンビに右サイドを絶えず脅かされる羽目になり、自陣で5-4-1の守備ブロックを作って耐える時間帯が長くなって行きます。
・浦和は川崎のFWへの縦パスこそ受け手の前で潰そうとしているが、それ以外は過度にボールに食いつくことなく、動きすぎてバイタルエリアをガラ空きにすることもなく、選手間の間隔を適度に保って粘り強く対応しているものの、右サイドは終始苦戦気味で、20分にはまた登里&長谷川のコンビで長谷川にフリーでクロスを上げられてヒヤリ。
・30分過ぎから「おーうらわれー → ララ浦和」が延々と流れている間に川崎の波状攻撃を受けてしまいましたが、ここはなんとか耐えに耐えて決定機は与えず。
・浦和は残念ながらボールを奪う位置が概して低く、攻撃は専ら快足マルティノスを走らせてのロングカウンター、あるいはWBを高く上げてからのサイド攻撃に頼るしかありません。31分岩武→ペナ角付近から武藤クロス→マルティノスヘッド(GK正面)、40分ロングカウンターでマルティノス激走&クロス→興梠合わせきれずと形を作るものの、得点には至らず。
・とにかくマルティノスにかかる負担が甚大で前半のうちにばててしまうのは致し方ありませんが、前半で電池切れになったのは何もマルティノスに限った話ではなく、後半に入ると浦和全体に早々と消耗したようで川崎の早いパス回しについて行けなり、また51分には妙にボールに食いつく悪癖も復活して全部交わされた挙句に小林に枠内シュートを撃たれてヒヤリ。
・そして54分前半から怪しげだった右サイドを長谷川&登里のコンビにぶち破られ、登里のクロスをダミアンに押し込まれてとうとう失点。右サイドの破綻は起こるべくして起きた感じでしたが、槙野も宇賀神もボールウォッチャーになっていてダミアンを全く見ていないとは・・・
・先制点を許したところで大槻監督は55分マルティノス→荻原、58分岩武→森脇と矢継ぎ早に代えるものの、いずれも効果なし。荻原は懸命に走るが完全に空回り、森脇は攻撃に関与できないどころか右サイドの守備がさらに怪しくなる一因となる始末で、川崎は前に出てきた浦和を相手に大攻勢。
・56分どフリーの大島が浮き球縦パス→ボックス内で小林シュートの決定機(西川セーブ)、59分家長縦パス→小林ポスト→長谷川浦和右サイドを深々と抉ってクロス(運よく宇賀神の背中に当たる)、63分車屋スペースへ長い縦パス→家長→ダミアン撃ち切れず。
・さらに浦和の苦境に輪をかけたのが興梠の負傷。どうも膝の状態が芳しくないようで、無理せずに交代という感じでしたが、代わって投入された杉本が走らず、収まらずで何の役にも立たず。ボールが収まらず1トップに不向きなのはセレッソ時代から明らかで、だからこそユン監督がトップ下山村との併用を発明したのでしょうから全然走らないのには参りました。
・従って川崎の大攻勢が止むわけがなく、77分守田縦パス→ダミアンポスト→守田ボックス内突入(シュートはわずかに枠外)、80分登里縦パス→またしても右サイドで豪快に長谷川に裏を取られて小林へパス(幸い小林の足元に入りすぎて撃てず)、AT+2分には森脇が長谷川に簡単に入れ替わられて長谷川クロス→家長のシュートはわずかに枠外。
・浦和が辛うじて凌いでいるというより川崎が外しに外しているという場面の連続で試合はいよいよ大詰めとなったものの、浦和は選手交代が全部不発な上に武藤もすっかり動けなくなっているので全く攻撃が成り立たず。FK・CKを取ってもこれといったプレースキッカーがいないという絶望的な状況に追い詰められ、誰がどう見ても川崎の勝利は疑いないと思ったことでしょう。埼スタなら観客がゾロゾロ帰りだしてもなんら不思議はない試合内容でした。
・しかし、1点差だと何が起こるか判らないのがフットボールの恐ろしいところ。ラストプレーで荻原CKからのこぼれ玉を宇賀神→西川フリック!荻原と繋ぎに繋いで、最後は森脇がゴール!! 森脇のシュートの軌道はどう見ても枠を捉えておらず、公式記録が谷口のオウンゴールではないのが不思議ですが、兎にも角にも浦和は強敵川崎から勝ち点1をもぎ取って連敗を4で止めました。最後につまらないミスで自陣深い位置で相手にスローインを与えた(=同点に追いつかれる起因)のがこの試合大活躍の登里だったというのが皮肉ですが。
・川崎の逃げ切り下手に助けられての勝ち点1ですが、どんな試合内容であれ勝ち点ゼロで終わるよりはるかにマシ。気持ちだけでは前半しか持たず、守備は右サイドをズタボロにやられ、攻撃はマルティノス頼みと課題も多い試合でした。しかし、それでもオリヴェイラ監督末期は攻守とも良いところなく、スタメンの疲弊感も顕著で「気持ち」さえ見えない試合の連続でしたから、それよりはずっとマシな試合だったと前向きに評価して差し支えないと思います。内容を問われる、大槻監督の真価が問われるのは次節からでしょう。
-----興梠-----
--マルティノス---武藤--
宇賀神-柴戸-青木-岩武
-槙野--マウリシオ--岩波-
-----西川-----
(得点)
90+5分 森脇
(交代)
55分 マルティノス→荻原
58分 岩武→森脇
69分 興梠→杉本(故障による交代)
・試合後のインタビューに呼ばれた森脇が全く喜んでいないところを見ると、試合内容が芳しくなかったことは皆判っているのでしょう。
・それにしても後半の大失速には参りました。オリヴェイラ監督のキャンプでの徹底したフィジカル強化とは何だったのか?? これは悪評高かった堀監督のキャンプと結果的に大差なく、戦術的な練習を全くしなかった分堀監督より悪いのではないか? 昨年の中断期間でのフィジカル強化ははっきりと効果を上げていただけに実に不可解ですが、オリヴェイラ監督のキャンプが大失敗に終わったことはどうも間違いないようです。そしてこのスタミナの無さは大槻監督を縛る訳で・・・
・怪我明け後も未だ試合で使える状態ではないファブリシオをベンチ外にしたのは当然だと思いましたが、代わって入れた杉本の出来には大槻監督もさぞかしがっかりでしょうなぁ。興梠はもう無理使いできる状態ではなく、夏にCFの入れ替えはやむを得ないと思いますが、金でドブを詰まらせる天才=中村GMは何もしないorできないんでしょうなぁ、たぶん。
---ダミアン--小林---
長谷川-------家長
---大島--守田---
登里-谷口-ジェジェ-車屋
-----ソンリョン-----
(得点)
54分 ダミアン
(交代)
78分 車屋→マギーニョ
87分 ダミアン→山村
87分 小林→知念
・川崎は前節からマギーニョ→車屋、脇坂→小林と2名入れ替えのみ。中村憲は依然ベンチ外。
・CBジェジェウは奈良の故障を受けてスタメンで試合に出るようになったそうですが、速くて強くて高さもある実に面倒なCBで、マルティノス頼みの浦和の単純な攻撃は悉くジェジェウに封じられました。なんで奈良故障まで出番がなかったのか実に不思議で、その辺がACLで勝てない一因なんだろうなぁ・・・