ボールを保持してる割には決定機が少ないとか、運動量を要求するので夏場は無理そうとか、後半運動量ガタ落ちとか、粗を探せばキリがないのも確かですが、閉塞感がハンパなかった昨年とは対照的にとにかく選手が攻守に躍動しているだけで感涙ものでした!! またスタメン起用された新加入選手が揃いも揃って機能。惜しくも勝ち切るには至りませんでしたが、期待感に満ち溢れた試合内容でした。
《スタメン》
・浦和は西・興梠・デンが故障中なのでCFと最終ラインは選択の余地がほとんどない反面、中盤、特に2列目の予想が難しいのですが、右SHが武田ではなく明本だったのがやや予想外。サブにDFが一人もいないのが辛いところ。
・FC東京(以下「瓦斯」)はアンカーにスタメン有力視されていた青木ではなく、A・シルバが入ったのが予想外でした。
《試合展開》
・瓦斯は前からのプレスが厳しく、かつ高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターが非常に巧いチーム。長谷川監督も就任4年目でチームも円熟度を増している反面、浦和は今年リカルド・ロドリゲス監督を招聘して実質的にゼロからスタート。昨年全然出来なかった最後尾からのビルドアップがまだまだ拙いところをいかにも狙い撃ちされそうで、開幕戦で対戦するにはかなり厳しい相手と戦前予想していたのですが、驚いたことに新生浦和は瓦斯に最初から最後まで何もやらせませんでした。
・ボールを持ったところで迷いの海に沈みがちだった昨年とは対照的に中盤の選手達が流動的に動き、さらにSBとSHが盛んにポジションを変えて攻撃。特に小泉のポジションはあってないようなもので、トップ下から右サイド、さらにかなり深い位置まで下がることもあるなど、銀髪で目立ちすぎるゆえかもしれませんが、リカのサッカーで一際輝いてたような気がしました。
・右サイドに小泉がしょっちゅう流れてくるので当然ながら明本は被らないように別のポジションへ動く。それに連動して他の選手もまた動く。守備陣が「誰が応対するの?」と迷いそうな選手と選手の間に流動的に動く浦和の2列目、3列目が巧く入りこんで、瓦斯のプレス網を空回りに終わらせているのが立ち上がりから非常に印象的でした。
・またボールを失った後のボール奪回への切替が実に速く、かつその動きが効果的。ここでも小泉や明本が懸命にプレスバックする姿が目につきました。それどころか汰木や山中が滅茶苦茶守備をするようになるとは!!
・最初に決定機を掴んだのは浦和。5分ボールコントロールにまごつくA・シルバに阿部が襲い掛かったのを契機に、汰木も中村帆に詰めて苦し紛れの縦パスを山中が回収。山中→小泉→杉本と簡単に繋いで杉本が見事に決めた!!と思いきやVAR判定でオフサイド。現地で見てもオフサイド臭かったのでやむなしと思ったのですが、帰宅してVAR映像を見たら思った以上に微妙なオフサイドでした。
・その後も浦和がボールを支配する時間帯がやや長いものの決定機を掴むには至らず。瓦斯も新生浦和のやり方に慣れて、無理やり前からプレスをかけにゆく場面は減って、しっかり4-5-1の守備ブロックを作って構える場面が増えたのがその主因でしょうか。浦和は2列目&両SB+伊藤敦が盛んに動き回って瓦斯守備陣を揺さぶりにかかるものの、森重&渡辺が構える中央部は微動だにせず。
・浦和はビルドアップ時に専ら阿部が最終ラインに下がる形をとっていましたが、細かいビルドアップにとことん拘る訳ではなく、時折西川らが大きく杉本へ蹴っていたのは瓦斯対策の一環かも。また阿部が最終ラインにいると山中どころか宇賀神まで攻め上がっていても岩波・槙野・阿部と後ろに3人残っているので実に心強い。
・浦和が惜しかったのは30分岩波のロングフィードを受けた明本が森重と入れ替わってボックス内に突入。杉本へクロスを送ったところまでは良かったのですが、杉本は好機に豪快に空振り三振(つД`) こぼれ玉に小泉が詰めるもシュートを撃ち切れず。あとは38分汰木のハイクロスに明本が飛び込んだ場面くらいかな、可能性があったのは。でも170cmしかない明本がでかいGKにハイクロスで競り勝てというのは無理があり過ぎ。
・しかし、浦和以上にゴールが遠かったのが瓦斯。浦和はそもそも危ない形でのボールロストが少ない上、先述のように失った後の攻守の切り替えが速いので瓦斯は得意のショートカウンターを披露できず。そしていったんボールを持たされると全く何も出来ない辺りは昨年からなんら変わっておらず。
・長谷川監督は後半頭からD・オリヴェイラ→アダイウトン、61分渡邊→永井と早めにFW陣を代え、しかも布陣を4-4-2(レアンドロ&永井の2トップ)に変えてFWの質&量の差で浦和を殴り倒しに来ましたが、浦和は依然として瓦斯のプレスを空回りに終わらせ続け、瓦斯得意のショートカウンターの機会を与えず。永井がいくらスピードがあったとしても、浦和の選手達が的確なポジションを取ってボールを動かしている限り、ボールを奪うのは至難の業。
・とはいえ、浦和も前半やや飛ばしすぎたのか、ボールは回れどもゴールへ向かう迫力がなくなり、左右から誰にも合わないクロスで終わる場面だらけに。選手を代えて運動量を補充したいところですが、劣勢に陥っている訳でもないので、下手に選手を代えてバランスが崩れるのが怖くてリカは動くに動けなかったのかも。
・双方流れの中から点が入る気配のない中、試合が動いたのはセットプレーから。74分小泉CK→ニアで明本がすらして槙野シュートこそGKが片手で阻んだものの東のクリアが不十分で、こぼれ玉を阿部が蹴り込んで先制。
・先制した浦和は79分山中クロス→杉本ヘッドの決定機を掴みましたが、ここはGKが好セーブ。そしてこれが流れの中では後半唯一の決定機に。それでも瓦斯が全く何も出来ていないところを見るとこの一点で浦和の逃げ切り濃厚でしたが、瓦斯も86分途中投入の三田FKを森重がヘッドで決めて同点に。
・この場面、森重になんら競ることなく飛び込みを許しているのがとにかく残念極まりないかと。また試合後の監督コメントでは阿部が足を攣っているので交代するかどうか逡巡している間にやられてしまい、結果的に同点に追いつかれてから阿部を交代する羽目になってしまったようです。
・同点に追いつかれた浦和は即座に阿部→柴戸、汰木→武田と代えたものの、これといった決定機は掴めず、相手に決定機を与えることもなく、そのまま試合終了。

《総評》
・冒頭に記したように、カウンターが鋭い瓦斯が開幕戦の相手というのはよちよち歩きを始めたばかりの新生浦和、とにかく昨年絶望的にビルドアップが出来なかった浦和にとってかなり厳しい結果にもなりうると予想していました。ところが終わってみれば、瓦斯のシュートはたった5本。CKに至っては1本だけ。勝てた試合をとりこぼした感も否めませんが、昨年の実力差を考えれば勝ち点1でも十分評価に値すると思います。
・瓦斯と言えば長年浦和のお得意様。浦和の状態がどんなに悪かろうと勝ち点が拾える貴重な相手でしたが、昨年対戦した時は完全にチームの実力が逆転していて、お得意様にダブルを食らっても実力差そのまんまの結果なので正直仕方ないとすら思っていました。ところがリカを招聘してたった2ヶ月かそこらで瓦斯がやりたいことをさせないレベルにまで浦和の実力はメキメキと回復。もうこれだけで監督の実力差は歴然!!
・リカが試合後「カウンターをうまく止める秘訣はやはり、いい攻撃にあると思っています。それぞれが適切な立ち位置でいい攻撃をすれば、必然的にディフェンスにもすぐ入り、それから抑えることもできると思っています。もちろんカウンターのときには寄せるところや切り替えのところ、戻すところは必要だと思うので、そこはやりました」と雄弁に語るように、瓦斯にカウンターチャンスを全く与えなかったことは高く評価していいでしょう。
・長谷川監督は「外国籍選手の合流が遅れたことで、まだまだ本調子ではないところがある。」と負け惜しみ(負けてはいなんだが)を言っていますが、そんなことを言い出したら浦和は興梠・西・デンと大駒三枚を欠いている状況。今年はリーグ優勝を狙っている長谷川監督にとって間違いなく勝ち点3を計算していたはずの浦和相手に何も出来ず、辛うじて勝ち点1を確保するに留まったのは結構ダメージが大きいかもしれません。
・昨年の試合内容が酷すぎたことの反動なのか、先々期待が持てるこの内容ならホームゲームで引き分けに終わったとしてももう万々歳で、提灯捧げて浦和の街を練り歩きたくなるくらい。それくらい楽しい90分でした。
・とはいえ、おいおい夢から覚めるのを覚悟しないといけない内容でもあったのもまた事実。リカが「もう少し相手にダメージと言いますか、より攻撃の決定的な場面を作れればというところではありました」と語るように、ボールを支配している割にはさほど決定機が作れなかった辺りが最大の反省点。
・もっとも監督交代後わずか2ヶ月かそこらの公式戦初戦で瓦斯に攻撃機会を与えないレベルに達しているだけで及第点で、さらに守備が強い瓦斯相手にボコボコ点を取るところまで出来たらそれこそ神業でしょう。また小泉も明本も盛んに動いて相手を攪乱してはいますが、如何せん共にJ1は初めてなので2列目から飛び出してゴールを狙う、相手に脅威を与えるレベルになるにはちょっと時間がかかるかもしれません。いずれにしても時が解決してくれるものと思います。
・コロナ禍&経営難のため、時が解決しそうにないのは選手層の問題。とりあえず大駒3枚を欠いていて目先CF、SB、CBの人選は非常に限られているのが辛いところ。また競った試合の途中投入で「質的優位」に立てそうな選手なんて浦和には全くいません。さらに開幕戦で早々と明るみになったように、勝てそうな試合のクローザー的な選手も不明瞭。阿部が90分持ちそうにないとなると、この問題は案外尾を引くかもしれません。
・従って夢は何試合も続かないかもしれませんが、昨年と違ってとにかく「夢が見れた!!」ことだけでもう大満足な開幕戦でした。

《選手評等》
・小泉、明本、伊藤敦と新加入の選手が3人もスタメンに名を連ねましたが、揃いも揃って組織の中で躍動!! 補強した選手が複数人、しかもいきなりスタメンで機能してるっていつ以来の話かな??? しかもいずれも安い!! 大金叩いて獲得した選手が全く機能せず、金をドブに詰まらせるだけに終わったシュータンとはいったい何だったのか・・・
・個人的なMOMは小泉。とにかくポジション不定なので、小泉と被らないように他の選手も最適ポジションを取り直さないといけない。小泉がこのチームの原動力になっているように見えました。もっとも小泉はチームを活性化させているけれども小泉自身にゴールを陥れる怖さがないのも確か。またプレスバック時に後ろから「バケツに足を突っ込む」ような、直輝がやらかしがちな足の入れ方をしがちなのがちょっと気になりました。
・CKは専ら山中が蹴るのかと思いきや、前半途中で小泉に交代。単純に蹴っても瓦斯に競り勝てそうもないのでリカはサインプレーっぽいのも織り交ぜており、この辺の工夫も好印象。FKのキッカーは山中、小泉、阿部と多彩でしたが、好位置で得たのは1本だけ。しかもボールを避けた汰木に当たってGK正面。遠距離のFKを岩波が蹴って派手に宇宙開発していたのは何だったのか?
・相手の位置、ボールの位置、味方の位置次第でしょっちゅうポジションを取り直さないといけないので、集中が切れやすい選手はこのサッカーには全く向いてのですが、その中で往々にして集中が切れる山中が最後までよく頑張ったと思いました。中村帆や渡邊に裏を取られかかったのは仕様ですが(笑)
・また杉本も覚醒の予感ムンムン。昨年も垣間見られた杉本の献身的なプレーがリカの下でようやくチーム力アップに結び付きそうな感じ。幻のゴールは本当に惜しかった。

-----杉本-----
汰木---小泉---明本
---阿部-伊藤敦---
山中-槙野-岩波-宇賀神
-----西川-----
(得点)
74分 阿部
(交代)
75分 小泉→田中
87分 阿部→柴戸
87分 汰木→武田

レアンドロ--オリヴェイラ--渡邊
--安部----東---
-----シルバ-----
小川-森重-渡辺-中村帆
-----波多野----
(得点)
86分 森重
(交代)
HT D・オリヴェイラ→アダイウトン
61分 渡邊→永井
75分 東→青木
75分 A・シルバ→三田
81分 レアンドロ→田川