【観戦記】21年天皇杯2回戦:浦和 1-0 富山 ~ とにかく90分で勝てば良かろうなのだ
富山の強靭なフィジカル&粘り強さに苦しめられ、かつ数多の決定機を決められずにもどかしい試合展開にはなりましたが、そこは試合中の修正力に定評がある「差し馬体質」リカのこと。道中どんなに苦労しようともゴール板直前で頭一つ差しきって勝ってしまうリカらしい試合でした。
《スタメン》
・浦和はルヴァン杯第1戦から中2日で西川、デン、達也を除く8名を入れ替え。といってもルヴァン杯よりはリーグ戦のスタメンに近い構成で、ルヴァン杯は第2戦で挽回が効くから第1戦は大敗しなかればOKと考えて控え選手中心とし、天皇杯重視で臨んだようです。
・ただその中でここまでリーグ戦ではベンチ入りすらままならず、ルヴァン杯でも途中出場止まりになっていた大久保をルヴァン杯第1節湘南戦以来超久しぶりにスタメンに抜擢したのが目を惹きました。
・富山は先週末に試合がなかったため試合間隔が大きく空きましたが、こちらも直近のリーグ戦から前目中心に5名入れ替え。
《試合展開》
・富山の基本フォーメーションは17番(姫野)アンカーの3-1-4-2で奇しくもルヴァン杯神戸戦とほぼ同じ形。守備時は5-3-2という感じでしたが、WBの片方がやたら前に食いついてしまうせいか4バックで守っているように見える時間も長く、前に食いつき過ぎているWBの裏を浦和に突かれがち。
・7分には小泉のサイドチェンジ→左サイドから大久保がカットインしてシュート。さらにその流れから小泉・山中・大久保のコンビネーションで右WB田中の裏を攻略して大久保がクロスと良い形。10分には達也が対面の左CB鈴木をスピードで振り切ってクロス。
・17分西→小泉→達也のパス交換で達也が再度左CB鈴木の裏に抜け出してクロス。そのこぼれ球を拾った小泉が鋭い切り返しで相手をかわしてシュートを放つもGK西部がセーブ。さらにそのこぼれ玉を拾った大久保のシュートもDFを直撃。
・ただ両サイドから攻撃の形は出来かかるものの、前半流れの中から決定機に至ったのはこの17分の場面だけ。富山は何度浦和の巧みなボール回しで交わされ続けようとも粘り強く前からプレッシャーをかけ、しかもフィジカルが強靭な選手が多くて要所要所でファウルまがいのプレーで浦和を潰しまくって防戦。
・この試合の主審が「仙頭@鳥栖ライダーキックですらイエローどまり。少々のラフプレーではイエローどころかファウルすら取らないという意味で一貫しており、変なところだけプレミア基準」の笠原主審だったのが富山に有利に働いた気も。やたらごついFW大野がラフプレー連発で傷んだデンが思わず激怒する一幕も。
・よって浦和は次第にビルドアップに苦しむようになり、ユンカーには全くと言っていいほどボールが入らず。チャンスらしいチャンスは42分CKからの流れで山中クロス→ファーで岩波ヘッドがクロスバーを叩いた場面だけ。逆に30分で富山CK→FW大野ヘッドでヒヤリとする場面も(ゴールマウスに吸い込まれる前に西がクリア)。
・リカは後半頭からデンに代えて槙野を投入しましたが、これは芳しくない戦況とは関係なく試合前の計画通りの交代=単に3連戦を槙野・岩波・デンの3CBでこなすために出場時間を均等配分するためでしょう。
・一方富山は前半よりは最終ラインをしっかり整え、5-3-2の守備ブロックを高めの位置に敷いて防戦しようという意図が伺えましたが、前半から浦和に随分走らされたのが響いてか、自陣でのボールロストが相次いで浦和に立て続けに決定機。
・54分阿部が敵陣でボール奪取→小泉のスルーパスを右サイドで受けた達也がグラウンダーのクロス→どフリーでボックス内に突入した大久保がトラップで一人相手を交わしたもののシュートはGK西部の正面。さらに58分には敵陣深い位置で左CB鈴木から達也がボールを奪取→大久保がGKを交わして中央へ折り返すも小泉のシュートは姫野に当たって枠外。
・しかも富山が早め早めに4選手を交代して運動量を補充したのが奏功してか、浦和はボールを回しているだけで攻めあぐみの様相に。リカが動いたのはようやく76分になってからで、しかも下げたのが大久保でも金子でもなく、なんと阿部だったのは少々驚きました。
・小泉をCHへ下げて前方への展開力を高める意図なのでしょうが、その効果が表れるより先に77分西のしょーもないボールロストを契機にカウンターをくらい、途中投入の椎名のクロスが誰にも合わずにそのままゴールマウスを襲う一幕がありましたが、ここは西川が集中を切らすことなく右手一本で辛うじてセーブ。
・そしてゲームが動いたのは80分。自陣左サイド深い位置でボールを奪った大久保は興梠にいったん当てた後にドリブルで長い距離を果敢に前進。飛び込んだ姫野に阻まれかかるもこぼれ玉を拾って再度前進してユンカーへ斜めにパス。
・大久保のユンカーへのボールは些かアバウトで絶対ユンカーは「思てたんとちゃう!」と思ったでしょうし、しかもユンカーの周りには追いすがるDF陣がうじゃうじゃいましたが、トラップ2発でシュートを撃てる体勢に持ってゆく能力が圧巻!! さらにそこからボールを地面に叩きつけ、GKが反応しづらいシュートを枠内に撃ってくるとは!!
・このゴール前に用意していたのかどうか判りませんが、リカはすぐさま大久保→汰木、山中→宇賀神と交代。ルヴァン杯神戸戦同様、終盤の試合運びは盤石とは言い難くて無駄にオープンな展開になり、ミスも多発しましたがそのミスを突くだけの力は富山にはなく、逆に90+3分敵陣高い位置で富山の縦パスを最後に投入された敦樹がカットしてそのままボックス内突入→横パスをユンカーが残り足でシュートという見せ場がありましたが、ここもGK西部がセーブして試合終了。
《総評》
・文字通り一発勝負のカップ戦なので内容なんてどうでも良くて「勝てば良かろう」。天皇杯でアマチュアにジャイアントキリングどころかどう見ても力負けを喫した過去を背負う者としては。
・2つもカテゴリーが下の相手になかなか点が入らず、80分になってようやく1点を奪っただけの「ウノゼロ」の勝利だったことにご不満な方もおられるかもしれませんが、リカはもともと早い時間帯から相手を圧倒しようなんてハナから考えておらず、まずは相手の出方を見極め、試合中に修正に修正を重ねて「90分間で勝てばよかろう」と考える差し馬タイプ。従って、相手にほとんど決定機がない以上イライラする理由なんて全然なく、苦戦してはいるけれども最後まで落ち着いて試合観戦できました。そしてその期待通りに最後できっちり頭一つ差しきっての勝利。
・また勝っただけでなく、大久保&金子とリーグ戦ではベンチ入りすら難しくなっている選手を長い時間使い、かつデンの追試も兼ねての勝利というのが実に有意義。ただ勝つためだけならもっと早い時間帯に大久保は代えられていたでしょうが、リカが我慢して大久保を長い時間引っ張ったのが大久保自身にもチームにとっても最良の結果を生みました。
・ただアウェー広島戦といい、ルヴァン杯神戸戦といい、守備時5バックの相手に苦戦を強いられ続けているのは確か。次のリーグ戦の相手湘南もそのタイプでルヴァン杯では2試合ともドローでした。来週は週央に試合がないので、リカが5バック対策を何か仕込んでくるかも。
・それより気になったのは負けた鳥栖&福岡同様、富山もまた結構フィジカルが強く、このゴリゴリ系が浦和は案外苦手なこと。浦和の前目は小さい選手が多く、かつユンカーもフィジカルバトルは得意ではなさそうなので、すぐにはどうにもならんかも。
《選手評等》
・達也は左SHも出来るはず(大分では左WBが主戦場)なので、達也左SH&大久保右SHという選択肢もあったはずですが、大久保が起用されたのはほとんど経験がないと思われる左SH。あえて大久保に左SHをやらせたのは右SHは達也と関根が激烈なスタメン争いをしているので目先大久保がそこに割って入る可能性はないというリカの判断なのでしょう。
・不慣れなポジションだろうがなんだろうが、与えられた出場機会を活かすしか生き残る道がないのが控え選手の辛いところ。実際大久保は前半クロスといいシュートといい精度を欠くばかりではなく、判断スピードも連携も今一つ。ただ「もう後がない」という危機感だけははっきり伝わってくるプレーぶりで後半尻上がりに決定機に絡み出して、代えられる直前にとうとう大仕事をやってのけました。
・大卒にしてはフィジカルが弱くて、競り合いの末に何度も地面に叩きつけられたのが気になりましたが、この出来なら引き続きカップ戦を中心に出番が回ってくることでしょう。
・一方残念だったのが金子。立場は大久保とそんなに差はないはずなのに、金子はあんまり危機感なさげで、ずっと無難なプレーしかしてないように見受けられました。もっとも相方の阿部が金子の良さを引き出せるほど余裕がなさげのがこれまた残念で、このセット自体がちょっと厳しいのかも。
・小泉は「得点能力だけは絶望的にない」ことをまたしても実証。でも昨年の汰木同様「やっととれたぁ・・・」とつぶやく日がいつかは来るでしょう。
・西は「相手なりにしか頑張らない」という暢久の後継者臭がプンプンでした。こんなにミスが多い西ってなかなか無い。
・試合前の練習を終えた西部はメインスタンドへ向かって挨拶するとスタンドから温かい拍手。そして試合後大奮戦したGK西部へまた盛大な拍手。浦和J2時代の末期に正GKに抜擢され、翌2001年は正GKに君臨したものの、オフト監督が招聘された2002年から出番は激減。ゆえに駒場での試合出場は19年ぶりかな? 苦い思い出だらけ、古ぼけたあのスタジアムを西部はどう見ていたのだろう・・・
-----ユンカー-----
大久保--小泉---達也
---阿部--金子---
山中-岩波--デン--西
-----西川-----
(得点)
80分 ユンカー
(交代)
HT デン→槙野
76分 阿部→興梠(小泉がCHに下がり、興梠&ユンカーの2トップへ)
81分 大久保→汰木
81分 山中→宇賀神
90+1分 小泉→伊藤敦
---大野--吉平---
--碓井---佐々木--
音泉---姫野---田中
-鈴木--戸根--柳下-
-----西部-----
(交代)
HT 吉平→高橋
63分 碓井→椎名
63分 鈴木→林堂
66分 大野→花井
80分 音泉→安藤
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