・本日(12/17)、興梠慎三選手が、北海道コンサドーレ札幌への期限付き移籍から復帰することが公表されました。
・浦和が興梠に復帰要請を出したことについては機関紙スポニチが11/6に報じたのが嚆矢。翌11/7には日刊が「浦和レッズに復帰することが6日、複数の関係者の話で分かった。」と踏み込んだ書きぶりを示し、その後興梠は札幌のタイ遠征には帯同せずに阿部の引退試合に出ている(11/12)等浦和復帰へ向けての状況証拠は積みあがったまま日が経ちましたが、ようやく本日無事正式に復帰する運びとなったようです。
・同日浦和の2023シーズンユニフォームが公表され、興梠もばっちり新ユニフォームを着て登場していることから営業上の要請で本日の復帰公表となった気がしてなりませんが。
・それにしても昨年末に突然興梠が札幌へ期限付き移籍が公表され(しかも西野TDのコメント付きという異例の形で!)、それからわずか1年で浦和に復帰するという経緯には、興梠も浦和フットボール本部も現時点では表に出せない話がいろいろ詰まっているような気がします。

・昨シーズンの興梠は残念ながらリーグ戦20試合(うちスタメン3)の出場に留まり、カップ戦を合わせても出場時間が1000分に満たないという、2013年浦和加入後一貫して主力中の主力として活躍し、リーグ戦でコンスタントに10点以上取ってきた実績からすれば信じ難いくらい低調な出来に終始しました。
・興梠の運命が一変したのは2020年最終節札幌戦での負傷。右腓骨筋腱脱臼で全治約3ヵ月間と診断され、リカ新監督を迎えた沖縄キャンプをリハビリに費やす羽目になってしまいました。翌年3月の横浜C戦で一応実戦に復帰したものの、リカもこの時点では「もう少し時間がかかるかな」と完全復帰には慎重な構えを見せ、実際その後の興梠はリーグ戦では後半途中からの出場止まりでほぼカップ戦要員になってしまいました。
・傍目にもはっきりとした太目残りの興梠。コンディションは一向に上がらず、超得意の鬼キープはままならず、決定機では微妙にコントロールが乱れてシュートは枠に飛ばず。そして致命的だったのは全然走れないこと。真夏の西京極で江坂に代わっての途中投入にも関わらず江坂以上に動けない興梠の姿には心底がっかりさせられました。
・興梠は「試合に出ながらコンディションを上げてゆくタイプ」なのでしょうし、不動のエースだったこれまではそれでも良かったのかもしれませんが、逆に言えばベンチスタートが当たり前になった時のコンディション管理が苦手なのかもしれません。その辺はベンチ暮らしを多々経験して「いつでも出られるように準備をしておくのが当然」という心境に達した宇賀神に遠く及びませんでした。
・出番が少なくなった興梠に対して、CFアンデルソン・ロペスを失った札幌が7月に正式オファー。この際浦和フロントは全力で興梠を慰留し、その甲斐あってか興梠は残留を決断しましたが、興梠の立場は好転するどころか膝の問題で8月末から10月一杯までベンチ外に。11月に入ってようやくリーグ戦4試合に終盤短時間出場して鬼キープ復活の兆しを見せたものの、天皇杯準決勝ではベンチ止まり、決勝ではベンチ外になってしまいました。
・過去8年間にわたって浦和の大エースとして君臨し、最後は興梠抜きには全く攻撃が成り立たない「興梠FC」とまで揶揄されるくらいの存在だった選手がたった一年で事実上戦力外的な位置づけになってしまうとは!!
・そして自分より遥かに試合に出ていた宇賀神や槙野が契約満了を告げられ、試合になかなか出られなくなった大ベテランの阿部はついに引退を決断。興梠が「今年はなかなか試合に出場できない時期が続き、自分自身このまま引退ということも考え」たのも無理はなかろうと思います。
・「出番が激減した高年棒のベテラン」という意味では興梠は宇賀神や槙野と全く同じ立場。それでも浦和フロントが興梠だけ契約満了としなかった(さすがに年齢的に複数年契約が残っていたとは考えづらい)のは、非常にえげつない言い方をすれば「単にCFの頭数が足りないから」だけだと思います。またベテランの阿部と興梠を一挙に失うのはチームへの衝撃がでかすぎることを考慮したのかもしれません。
・そんな状況で浦和に残留し、多少コンディションが良くなったとしても来年もユンカーや江坂、下手をするとFW転用された明本より下の位置付けに甘んじてしまうかもしれない。そんな中で「自分を必要としてくれるクラブからオファーをいただき、もう一度真剣にサッカーと向き合い、もう一度もがいてみようと思いました」「またミシャとサッカーが出来ること大変うれしく思います。」と興梠の心が揺れたのはこれまた無理もなかろうと思います。
・興梠は契約満了で札幌へ完全移籍でも特に不思議はなかったのですが、大ベテランにも関わらず「期限付き移籍」の形を取った(=おそらく浦和との契約を再締結して期限付き移籍)のは、「最後は浦和在籍で選手生活を終えたい」という興梠なりの浦和への誠意だと思います。契約上興梠がいる札幌が浦和と対戦することはない。興梠が恩義あるミシャの下で再生を図りたいのは山々だが浦和にも多大な思い入れがあり、西野TDと共に落としどころを探った結果が「期限付き移籍」なのでしょう。もっとも興梠移籍による浦和フットボール本部のダメージはでかく、実質CFゼロで開幕を迎える羽目に。

・札幌へ活躍の場を移した興梠はリーグ戦21試合1348分出場して5得点。ミシャの絶大な信頼に応えて開幕時からスタメン出場したものの、4月に右膝内側半月板損傷で第8節から離脱。6月の第17節から戦線復帰しましたが、残念ながら復帰後もフル出場はなく、後半途中までの出場に留まったようです。
・出場時間からすれば札幌の主力とは言い難いものの、札幌は相変わらずCFらしいCFが質的にも量的にも不足しているせいか、最前線でボールをしっかりキープできる興梠は実に頼もしい存在に映ったようです。また傍目にも興梠の身体は昨年よりもはっきりと絞れていて動きもそれなりに軽快になったように見受けられました。札幌でコンスタントに試合に出たのが興梠流のコンディション調整に向いていたのでしょう(残念ながら得点感覚だけは全盛期よりだいぶ落ちた感は否めませんでしたが)。
・従って興梠は来季そのまま札幌へ完全移籍しても特に不思議はなかったのですが、興梠はわずか1年での浦和復帰を決断しました。その裏に何があったのかすぐに明らかにはならないと思いますが、傍目には「やたら運動量を要求するミシャのスタイルという構造的要因で怪我人がコンスタントに発生しがち」なチームになってしまった札幌は大ベテランで怪我がちになった興梠には合わないからだと邪推しています。悪く言えばミシャを慕って札幌へ行ったはいいが、ミシャが札幌でやってたサッカーは浦和のそれとは似ても似つかない何かになっていた!!という「猿の惑星」みたいな結末ですし・・・
・だが浦和に戻ったところで興梠の立場は昨シーズンとそんなに変わりありません。スコルツァ新監督の新フォーメーションは基本4-2-3-1。ユンカーと江坂の去就が極めて不透明な現在、CFの軸は断然リンセンと目され、興梠は新加入の髙橋と2番手を争う立場。戦力として活躍してくれるならそれに越したことはないのでしょうが、浦和フットボール本部的には戦力云々というよりも岩尾同様「チームをびしっと締められるベテラン」として興梠に復帰要請を出し、興梠もその意図を理解した上で復帰を決断したものと推測します。
・新ユニフォームを纏って登場した興梠の姿はオフシーズンとは思えないくらいしゅっと締まっていました。浦和での残り少ない日々へ向けての興梠なりの決意の表れでしょう。
・「いつか、必ず」との言葉を残して札幌へ移った興梠。そしてその言葉通りというか、予想外に早く戻って来た興梠。おかえりなさい!!