結果こそスコルジャの下ではすっかりお馴染みのスコアレスドローでしたが、前年優勝チーム相手に「点は取られそうな気がしない上に、先制点を奪ってそのまま勝てそうな試合」内容で、およそ点が入る気がしなかった2023年のスコアレスドローとは全く意味合いが違う、先行きに期待が持てるスコアレスドローでした。
《スタメン》
浦和は加入してひと月も経っていないボザをいきなりスタメン起用。スコルジャは試合前の記者会見で「プレーすることによってコンディションが上がるというのは一つのやり方だと思います。ダニーロに関しては、私はフィジカルの面では心配していません。」とスタメン起用の可能性を示唆していたので、いきなりのスタメン起用はサプライズとは言い難いでしょう。
また今季の渡邊は2列目が飽和状態なことも相まってどうもCH起用が鉄板になりそう。しかもその相方にグスタフソンではなく安居を起用したのはいかにも守備重視=対神戸スペシャルっぽい感じ。
それ以外のスタメンは沖縄キャンプでのTMの様子から漏れ聞こえてくる話の範囲内で、スタメンにこれといったサプライズはありませんでした。
また今季からベンチ入りメンバーが9人に増えたので、攻撃のオプションが増えまくり。逆に守備駒はもともと頭数がいないので選択肢なんて全然ありません(苦笑)。
神戸はACL上海海港戦から中3日で、その時のスタメンと全く同じ。宮代・井手口・広瀬・カエターノらが負傷離脱中のためかベンチメンバーがちょっと寂しい印象。

《試合展開》
前年優勝どころか2連覇中の神戸相手の開幕戦、しかもアウェーゲームなので浦和は慎重に試合に入ると思いきや、非常に意外なことに試合は立ち上がりから完全に浦和ペースで進みました。
神戸の攻撃の手口は非常に単純で、まずはとにかく大迫や武藤へバンバンロングボールを供給。敵陣深いサイドに基点を作ったらそこからこれまたバンバンクロスを放り込む。ただそれだけ。しかし大迫や武藤がJリーグレベルではフィジカルモンスターすぎてこの攻撃を90分防ぐのが難しい。
スコルジャはその辺は百も承知で、試合前の会見で「今週に入ってからはローディフェンスに重点を置きました。相手のダイアゴナルボールでファイナルサードに入る場面に対する守備であったり、クロス対応であったり、そういうところをトレーニングしてきました」と神戸対策を仕込みまくったことを吐露。そして練習の甲斐があって、前半は神戸に何もやらせませんでした。
神戸のロングボール攻撃に対する浦和の具体策については、関根が試合後しゃべりすぎるくらいしゃべっています。
まずはサンタナと松本が神戸にロングボールを蹴らせないようにプレッシャーをかけ続ける。しかも昨年までありがちだった「個々人のカミカゼアタック」ではなく、いったん高めの位置にブロックを作ってから両者で連携をとりながらプレスをかける感じに整理されていました。
またサンタナの前プレなんて昨年はあってないようなもので、その難点がリンセンにスタメンを奪われる主因と見受けられましたが、今季はまるで別人。サヴィオ&ボザと気軽にバカ話が出来るブラジル人のチームメイトが増えて何かと気楽になったせいか、プレーのパフォーマンスまで上がってしまうというアミーゴ体質のなせる業なのかどうか。
神戸はもともとビルドアップに持ち味がない上に、右WG武藤へ向けて対角線のロングフィードを得意としていた右SB初瀬が移籍したためか、最終ラインから精度の高いロングフィードをなかなか遅れず。そのためボールが来ない大迫がやむなく中盤まで降りてくる場面すら生じる始末。
それでも神戸最終ラインがなんとか繰り出してくるロングボールを収めようとするのはさすが大迫。マリウス&ボザと言えども大迫とのマッチアップは勝ったり負けたりといった塩梅でしたが、大迫で両CBが完勝できないのは浦和守備陣も完全に織り込み済み。大迫が競り勝った後のセカンドボールを渡邊や安居が拾いまくることで前半は神戸のロングボールを完封。
また神戸の良さはボールを失った後の攻守の切り替えの早さ、そしてプレスの強度。これに対して浦和はまずはロングボールを多用して前プレを回避。西川なんて全部長いボール蹴りまくり。しかもサンタナではなく両SHをターゲットに蹴っていました。当然ハイボール完勝なんて全く望めませんが、ここも中盤の選手がセカンドボールを拾いまくることでなんとかボールを前に運んでいました。そしてこれを繰り返すことで多少なりとも神戸の陣形を間延びさせ、15分くらいから地上戦でのビルドアップへとシフトしていったように見受けられました。
攻守とも浦和が良い感じで試合に入り、しかも最初に決定機を掴んだのも浦和。8分自陣深い位置でボールを奪ったサヴィオが神戸の中盤の選手を二人吹き飛ばしながら独力でドリブルで運んでスルーパス→松本のシュートがポスト直撃!!Jリーグにいたらアカンレベルのサヴィオの大迫力もさることながら、サヴィオからボールが来るのを信じて神戸最終ライン裏へ抜ける松本の動きも見どころ十分!!
16分にはCKからの流れで相手のクリアボールをでサヴィオがボックス外からダイレクト強烈な枠内シュート。さらに30分にはサヴィオFK→サンタナヘッドが枠内を襲いましたがここはGK前川がビッグセーブ。
一方神戸は全く何も出来ずにいましたが、前半終了間際から次第にセットプレーに活路を見出す格好に。ところが56分には負傷した酒井の交代を余儀なくされ、全くいいところがなかった汰木に代わって投入されたパトリッキも負傷して71分に飯野と交代せざるを得なくなるアクシデント続発。
浦和も浦和で両CHを筆頭に運動量が落ちたため試合は次第にグダグダ模様のイーブンな形に。とはいえ、守備が決定的に破綻している訳でもないのでスコルジャは動くに動けないのか、71分に金子に代えて原口を入れただけでしばらく様子見に。
どんなに出来が悪かろうともセットプレー一発で点を取ってそのまま逃げ切れるのが神戸の強さ。というかリーグ優勝するチームってだいだいそんなもの。そして80分扇原CK→トゥーレルがどフリーでヘッドの決定機がありましたが、シュートは枠を捉えられず。
方や浦和は81分サヴィオCKをニアでマリウスが後ろにすらし最後は松本が押し込んでゴール!!と思われましたが、VARで松本のハンドを咎められてノーゴールに。
90分大迫が浦和両CBの間を抜けて西川と一対一になりましたが、ここは西川が好セーブを見せ、6分もあったATは何事もなくそのまま試合終了。

《総評》
なんせ昨季はオフに大量補強を敢行したにも拘らず、フロントも現場も迷走を繰り返した挙句に13位で終わった残念なチーム。それゆえ今季もいくら補強したところで急激にチーム状態が良くなる訳がなかろう、来季へ向けて何がしかの積み上げが出来ればそれで十分と、志を下げに下げて開幕を迎えました。
しかも相手は前年優勝チーム。既にスーパーカップ&ACLと2試合消化済みで、これが公式初戦の浦和とは試合勘に大差があるため、下手をすると立ち上がりにボコられてそのまま試合が終わってしまうかもしれないと危惧していました。
ところが蓋を開けてみると浦和は周到に「対神戸スペシャル」を練っていて優勢どころか神戸に何もやらせない状態で前半終了。後半は運動量が落ちてグダグダになりましたが、それでも神戸に許した決定機は80分トゥーレルのヘッドだけで、流れの中では守備は全く破綻しませんでした。なお90分大迫のゴールが決まっていたら、マリウスを手で引き倒しているファウルをVARで間違いなく咎められたかと。
DAZNのスタッツを見ても、シュート数神戸8vs浦和17、枠内4vs10とやはり浦和が優勢。ゴール期待値が1.78vs1.17と浦和が案外低いのはボックス内からのシュートが少ないためでしょう。でもそもそも全然シュートを撃たなかった2023年よりはずっとマシ。
スコルジャが「ゴールを取り消されるというアンラッキーな場面もありながら、勝利にかなり近い試合だったと思います」と語り、試合後の選手達も関根「自分たち全員が勝てたと思える試合内容ではありました」など、手応えをはっきりと掴んでいたのも至極当然。
終盤スコルジャが選手交代を躊躇い、結局交代枠を余らせて試合を終えたことを批判する向きもあるようですが、守備が破綻していないチームを代えるのは難しいもの。試合後「長倉投入を考えなかったのか?」との問いに対して、スコルジャが「試合の終盤のほうで、神戸の危険なセットプレーが続くという流れがありましたので、そこで高さのあるチアゴ(サンタナ)を残すことにしました」と答えているのはやはり前年優勝チームとのアウェーゲームで「今日は昨年のチャンピオンとの試合で、いい結果を持ち帰ることが大事でした。」、つまりまずは勝ち点1を持ち帰ることを優先したのでしょう。
反省点はやはり優勢だった前半ですら神戸守備陣を崩したのは松本の決定機だけだったことでしょうか。金子や荻原がクロスを上げまくっていましたが、単純なクロス攻撃は神戸にはなかなか通用しません。
またこの試合はいかにも神戸から勝ち点をもぎ取ることに特化した「対神戸スペシャル」臭がプンプン。神戸とはスタイルが全然違うショートカウンター狙いの狂犬系京都&湘南相手では浦和は全然別の顔を見せるでしょうし、それが今季の本来の姿かもしれません。
さらにこの試合運びはどう見ても両CHを筆頭に中盤の消耗が酷すぎて連戦には不向きな上に、夏場はおよそ実現不可能。スコルジャは超過密日程だった2023年で夏場のやり過ごし方に失敗したと認めているので、夏場向け・連戦向けのセカンドプランも用意していることでしょう、たぶん。
とにかく2023年に量産されたスコアレスドローは「失点する気はしないが点が入る気もしない」という内容だったのに対し、この試合は「失点する気はしない上に、点が入る気配は濃厚だった」ので、同じスコアレスドローでも内容には雲泥の差がありました。また2023年、2024年の開幕戦は新監督の仕込んだことを愚直に実行してボコられましたが、この試合では「昨年からの修正」と思われる要素がてんこ盛りでした。
出場した新加入選手も期待通り、額面通りの働き。勝ち点は1に留まりましたが、久しぶりに先行きに期待が持てる開幕戦で大満足でした。
《選手評等》
・今季のJリーグは「アクチュアル・プレーイングタイム(インプレーの時間)の増加」を目指しているそうですが、Jリーグの笛ってやたら笛を吹くのではなく、逆に手を使ったファウルとか後方からのファウルとか、取るべきファウルを取らない問題の方がデカのではないかと。それゆえJリーグでは取られないファウルをACLで取られて戸惑っている例がまま見られます。
・この試合の荒木主審は手を使ったファウルとか後方からのファウルとかにやたら甘い、典型的なJリーグ基準の笛。審判のクォリティーに難がある状態で、アクチュアル・プレーイングタイムの増加なんて目指して安易に笛を吹かないようにするのって違和感しかありません。笛を吹く基準がバラバラになるのがオチじゃないかなぁ・・・
・この試合では「さっきは吹かなかったのに、なんでこれはファウルなんや!!」とばかりに神戸の選手たちが荒木主審に詰め寄る場面が目立ちましたが、露骨に後ろから蹴ったり押したりしているのに何を揉めているのかさっぱり・・・ 一方スーパー杯での木村主審は見事な裁きっぷりで、簡単に笛を吹かずにそのまま流したのが得点に繋がっていました。

-----サンタナ-----
サヴィオ---松本---金子
---安居--渡邊---
荻原-マリウス--ボザ-関根
-----西川-----
(交代)
71分 金子→原口(原口左SH、サヴィオ右SHへ)
89分 荻原→長沼
89分 サヴィオ→前田
汰木---大迫---武藤
--佐々木---鍬先--
-----扇原-----
本多-トゥレル--山川-酒井
-----前川-----
(交代)
56分 酒井→日髙(負傷による交代)
63分 汰木→パトリッキ
71分 パトリッキ→飯野(負傷による交代)
※写真は試合とは全く関係ありません