・ほぼリーグ戦を犠牲にしながら闘ってきたACLを手も足も出ない惨敗で終える。一応ファイナリストとはいえ、ああいう形で負けてしまうと精神的なダメージはさぞかしでかいことでしょう。もちろん連戦また連戦から来る溜まりに溜まった肉体的なダメージも大きく、ACL決勝に出場した選手達がこの試合へ向けて切り替えるのは容易ではなかったと思います。
・とはいえACLという夢の舞台を降りると、今度は残留争いという厳しい現実が待ち構えています。浦和は第32節終了時点で16位湘南と勝ち点4差、17位松本に勝ち点6差に迫られているものの、最終節に松本vs湘南戦が組まれているため残り2節連敗してももはや17位=自動降格圏に転落する可能性はなく、この試合に勝てば自力で残留決定という立場。またこの試合引き分けに終わっても他試合の動向次第ではほぼ残留が決定します。
・だが、昨今のリーグ戦のあんまりな試合内容を見れば見るほど、浦和にとって勝ち点3どころか勝ち点1すらものすごーーーく遠く思えてなりませんでした。ゆえに浦和のJ1残留は専ら湘南を筆頭に残留争いの渦中にあるチームが負けることをひたすら祈るほうが早道で、いわゆる「他力本願寺」参りが赤者の間で大流行。
・もっとも、監督や選手までもが神仏に頼るわけにはいかず、残留争いという現実に向かって必死にメンタルなりフィジカルなりを立て直し、FC東京(以下「瓦斯」)戦へ向けて最低でも勝ち点1を掴み取るべく準備をしたのでしょう。そして編み出されたのが「走れメロス」ならぬ「走れマルティノス」。
・残念ながら「走れマルティノス」は前後半ともほとんど機能せず、それどころか序盤で大量失点しても不思議はない惨状で、大槻監督のアイデアが絵に描いた餅というか、空理空論というか、とにかく「仕込み下手」なことがまたまた露呈したような気がしてなりませんが、それでも心身共に疲れ切ったであろうレギュラー陣をずらずら並べて、武藤離脱後はもはや惰性の極みとしか言いようがない「ちょいミシャ」でだらだら闘うよりはマシだったと思います。
・そして結果はお互いセットプレーで点を1点ずつ取り合っての引き分け。勝ち点1を積み上げるに留まり、同日16位湘南が勝って勝ち点2差に迫られたため残留確定は最終節に持ち越しとなりました。
・ところが、浦和と同じ勝ち点36だった清水と鳥栖がこの日共に敗れて浦和はわずか勝ち点1差ながら頭一つ抜け出す格好に。しかも最終節に清水vs鳥栖戦が組まれており、さらに湘南・清水・鳥栖の3チームとも得失点差が浦和よりかなり悪いために、最終節浦和は10点差以上で敗れない限り残留が確定。選挙報道的にいえば「残留確実!!」のランプが点灯しました。
・「走れマルティノス」が失敗に終わっても負けない。おまけに日程くんのいたずらも手伝ってJ1残留がほぼ確実になる。これも2004年を最後に負け知らずという味の素スタジアムの御加護の成せる業なのでしょう。ACLの影響でリーグ戦の消化が浦和だけやたら早かったにも関わらず、浦和の試合がない間に残留争いのライバルたちの足を引っ張りまくった「他力本願寺」の数多の仏様も含め、厚く御礼申し上げます。
・浦和はスタメンをACL決勝第2戦からファブリシオ→マルティノス、長澤→柏木、橋岡→ 森脇、関根→山中と興梠以外の前目のスタメンを大きく入れ替え。ACLから中5日空いてますが、ACLでの心身両面での消耗というか燃え尽き度合いを勘案して、大槻監督はACL決勝の結果如何に関わらず、瓦斯戦に向けて大幅なスタメン入れ替えを予定していたものと思われます。
・その反面、両ボランチを含めて守備陣はいつもの面々。ACL制覇の夢が潰えた翌朝にはなぜかシーズンが終わってしまったかのように「西川は右手小指剥離骨折、槙野は盲腸炎を抱えたまま出場」していたという美談(?)がスポーツ紙を飾る始末でしたし、イエロー累積3枚を抱える鈴木&岩波が最終節で共に不在という事態を避けたいという思惑もありましたが、結果は全員スタメン出場。後ろまでスタメンを弄ってしまうと、それこそ天皇杯Honda戦の悲劇の繰り返しになりかねないので、苦渋とはいえ妥当な選択だと思います。
・面子から見て、ひたすらマルティノスを瓦斯の最終ライン裏へ走らせる「走れマルティノス作戦」に打って出るものと予想はつき、実際序盤はその意図が伺われましたが、「走れマルティノス作戦」は残念ながら瓦斯の「狂気の前プレ」の前に全く体をなさないどころか、大崩壊寸前まで追い込まれてしまいました。
・瓦斯は勝ち点差わずか1で首位横浜Mを追う立場。前節湘南に引き分けて2位に転落したばかりで、今節も湘南同様残留争いの渦中にある浦和相手に不覚を取る訳には行かないとばかりに全力で飛ばしに飛ばして浦和守備陣に猛然とプレッシャーをかけてきました。そして5分には永井が森脇の裏へ走り出したのを契機に、D・オリヴェイラに決定機。永井なり両SHなりが浦和の両WBの裏を突くという非常に判りやすい攻撃が序盤何度も見られたのに、大槻監督は全然手を打っていないのか・・・orz
・6分には青木のボールロストからの攻→守の切り替えが緩慢過ぎてバイタルエリアで三田がどフリー→スルーパスでD・オリヴェイラに決定機を与えてしまいましたが、西川が好セーブ。8分にはエヴェルトンのボールロストからロングカウンターを食らって永井に決定機を許しましたが鈴木がなんとか駆け戻ってブロック。16分には浦和のCKのこぼれ玉への青木の対応が拙くてロングカウンターを食らってしまう一幕も。
・浦和は「走れマルティノス」作戦を発動しようにも瓦斯のプレッシャーが厳しすぎて落ち着いてボールを蹴らせてもらえないので、ボールの精度も悪ければ受けての呼吸も合わずに、簡単にボールを回収されたり、タッチを割ってしまったりと散々。そして23分には三田に豪快に裏を取られた山中が早々とイエローをもらう始末。
・しかし、試合後大槻監督が「向こうは前半からあの飛ばし方だったので、あれは続かないですよね。」と語っていた通り、20分くらいから早くも瓦斯の前プレが緩くなり、浦和はしっかりボールを繋いでゲームを落ち着かせられるようになりました。といっても浦和は決定機どころかシュートにすら撃てないという惨状には変わりなく、しっかりボールを繋いで相手を押し込めるようになった反面、スペースが消えてマルティノスをスタメンで使っている意味がなくなってしまうアンビバレントに悩む羽目に。
・どう見ても浦和は前半スコアレスなら御の字という出来でしたが、驚いたことに決定機どころか満足にシュートすら撃てなかった浦和が39分先制!! ショートコーナーからほぼどフリーで山中が放ったミドルシュートはえげつない軌道を描いて枠内へ。GK林は弾くのが精一杯で、こぼれ玉をマルティノスが詰めたものでしたが、今まで何の工夫もなく、当然ながらほとんど得点の臭いがしなかった浦和のCKをきっちりデザインした形で得点に結びつけるとは!! お粗末すぎる守備に目を瞑ってスタメンで山中を使った甲斐がありました。
・しかも不運なことに山中と交錯して傷んだD・オリヴェイラが失点直後に田川と交代を余儀なくされ、しかも後半に入ると鈴木と競り合った永井が傷んで(脱臼癖があるらしい)57分にナ・サンホを投入せざるを得ない羽目に。瓦斯の攻撃はD・オリヴェイラが最前線に橋頭保を築き、永井がスペースに走ってナンボなので、両FWを一遍に失った瓦斯が流れの中から得点を取る可能性はほぼ潰えたといって差し支えないでしょう。
・一方浦和は前半から引き気味で守備に奔走していた興梠が先制直後あたりからはっきりとシャドーの位置に下がってはっきりしたマルティノス1トップに。一層前がかりにならざるを得なくなった瓦斯相手に「走れマルティノス」大作戦をお見舞いするという理想的な状況になりましたが、これが笑ってしまうくらい機能しない。浦和のシュートは試合を通じてたった6本に終わりました。
・良い形でボールを奪ってカウンターの形になっても出し手とマルティノスの呼吸がまるで合わず、マルティノスが明後日の方向に走ってしまう、あるいはマルティノスを囮にして前線へ走る選手がいないというありさまで、「走れマルティノス」は完全に机上の空論に。肝心なところでなぜかマルティノスがコケ芸を連発するのにも参りましたが、「走れマルティノス」を上手く仕込めない大槻監督もなんだかなぁ・・・
・双方流れの中から点が入る感じはほとんどしませんでしたが、瓦斯が69分CKからの流れでこぼれ玉を田川が蹴りこんで同点に。このCKはもともと浦和CKをGK林がキャッチし、そこからロングカウンターを食らったところに起因しています。よって失点場面そのものよりも、前半から垣間見られた浦和の攻→守の切り替えの遅さのほうが「再現性がある」という意味で罪深いと思います。だからこの順位にいるのでしょう、浦和は。
・同点に追いつかれたためか、大槻監督は立て続けに両WBを代えて守備固め(橋岡投入効果は絶大!)。しかし最後のカードを90分持たずに動けなくなった柏木に充てざるを得ず、ゲームの〆に相応しい阿部投入の機会が失われて逃げ切り態勢としてはやや不安定な状態で試合は終盤へ。
・最後まで「走れマルティノス」は機能せず、逃げ切ろうにもボールを満足に繋げず、相変わらず自陣深い位置でのファウルは多く、あろうことか槙野が前に出てきてボールロストと不安定な要素てんこ盛りでしたが、瓦斯の攻撃も全く迫力がなく、これといった決定機を与えることなく無事最低限の勝ち点1をゲット。条件が複雑すぎたので、「ほぼ残留確定」なことが判明したのは選手はもちろんベンチすらも試合終了後しばらく経ってからだったでしょう。
・同日横浜Mが勝ったため瓦斯との勝ち点差は3に拡大。最終節横浜Mとの直接対決で瓦斯優勝の可能性こそ残ってはいるものの、4点差以上での勝利が必要という極めて厳しい状況に追い込まれました。よって「勝ったも同然に引き分け」だった浦和とは対照的に瓦斯にとって「痛恨過ぎる引き分け」。瓦斯がこの試合を痛恨の引き分けで終わったのはどう見ても浦和の出来が壊滅的だった序盤に1点も取れなかったこと。それに尽きます。
-----興梠-----
--マルティノス---柏木--
山中-青木--エヴェ-森脇
-槙野--鈴木--岩波-
-----西川-----
(得点)
39分 マルティノス
(交代)
74分 森脇→橋岡
76分 山中→関根
79分 柏木→長澤
---永井--ディエゴ--
東---------三田
---高萩--橋本---
小川-森重--渡辺-室屋
-----林------
(得点)
69分 田川
(交代)
42分 ディエゴ・オリヴェイラ→田川(負傷による交代)
57分 永井→ナ・サンホ(負傷による交代)
77分 三田→ユ・インス